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なんとなく、「こだわり」という言葉にこだわってみたくなった。こだわりとはいったいなんなのだろうか?
例えば、石鹸。
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いきなり、石鹸なんていう、わかりやすくもないたとえで申し訳ないのだが、ちょっとしたマイブームなのである。
この石鹸、意外と侮れないもので、古くて新しいものだと思って毎日使っている。
手を洗う、体を洗うことにはじまり、洗髪も石鹸だし、歯磨きも石鹸を使っている。洗濯も基本洗剤を使わず、石鹸を使うことにしている。最近、仲間が増えて、台所用を購入。食器洗いも石鹸と相成ったわけである。
石鹸の良いところは、食器洗いをしたときに他の用途以上にはっきりと、それこそ“肌で感じる”ことができた。簡単に言うと、手荒れを防ぐどころか、食器洗いが終わったときに、ぼくの手の甲は水を弾き、水は玉となって滑り降りていくのだ。考えてみれば、合成洗剤は油分を分解することに長けており、だからこそ食器についた油分をそれこそつるつるになるくらいまで落とすことができる。便利なことはこの上ない訳だけれど、食器についた油分と一緒に肌の皮脂まで取り除いてしまう。人の肌にはバリアとも言うべき皮脂がある訳で、その皮脂なんて食器にこびりついた油に比べればそこまで強い訳ではない。つまりはその便利さに負け、肌は油分を失い、かさかさになってしまうのだ。わかりやすいと言えば、わかりやすいことだ。
だから、肌の保湿などを考えて、さまざまな化粧品の類いにお世話になる、ということになる。だけれども、ぼくはそういったものを一切使っていないが、人がうらやましがるくらい肌はつるつる、しっとりと、まあ、きれいなものだ。石鹸さまさま。
さて、石鹸にはグリセリンとなる油脂を含む成分で作る方法と、グリセリンを除いて作る方法がある。このふたつの方法の違いに「こだわり」という言葉に隠されたものがある気がしているのだ。———やっとこさ、「こだわり」の話になりました。読んでくださった方、お待たせしました!———
確かに、今のご時世に石鹸を作り続けるだけでも「こだわり」があると行っても良いと思う(合成洗剤のほうが安くてたくさんできるのだから)。しかし、肌を守りながら洗える石鹸と、例えば、顔を洗ったとき突っ張り感のある石鹸とは製法が違うのであった。
ものすごく簡単に製法の違いを説明すると、グリセリンを除く製法は「中和法」といって、4〜5時間ででき、大量生産に向いているが、グリセリンを含む製法は「ケン化法」職人さんが釜炊きをして、さらに一週間熟成させるというという念の入れ方。後者がぼくの使っている石鹸である。
まさに手間。
つまり、こだわりとはある程度、細部に対してそれを実現することで感じてもらえるものだと思うが、この手間をかけたいくつもの細部が連なった全体感を一体何というべきか?
「妥協がない」。どうだろうか?
妥協がない人というのはまさに細部にはもちろん気を配っているし、だからといって、こだわりがないはずがない。
最近、気に入って履いているのが、この「MIYASHITATAKAHIROThe Soloist.」のknit pant.。履いた瞬間の気持ちの良さに瞬間楽園を思ったほどだ。そして、鏡映る姿に愕然とする。ニットとはいえ、そのシルエットは完璧と行っても過言ではない。ここに「妥協がない」精神にぶち当たった。
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カシミヤにこだわった訳ではないと思う。ただ、履き心地や軽さ、機能性、張り感や柔らかさ、洋服というすべての機能美を突き詰めていったら、カシミヤを使っていた、といったところだろうか? 突き詰めることはこだわりを体現することではない。思想といっても良いかもしれない。
これは勝手な思い込みかもしれないが、ニットのパンツを作ろうと考えて、妥協することなく、作りたい思いを形にしていったら、こうなった、いったほうが正しいのだと思う。つまり、デザイナーは思想をこの一枚に吹き込んでいったのだ。センスという一枚の服にとっての命を与えていたのだ。
ここで書いていることは確かに勝手な思い込みかもしれない。だけれど、デザイナーにとって、服こそがすべてであるとしたら。作ったものに、何の言い訳もいらないとしたら。ただそこにある服に言葉はいらないとしたら。
このknit pant.は確実に語りかけていた。肌で感じることが、言葉に置き換えられるほど雄弁だった。服はデザイナーからのメッセージに他ならない、唯一の言葉だった。
☆初めまして、北原徹と申します。ファッションを中心に編集者をやっております。また、ファッションフォトグラファーでもあります。こちらはRay and LoveRockと称しております。写真も撮れる編集者といったところでしょうか?最近は劇団ひとりさんを文字って「エディターひとり」なんて呼んでおります。以後お見知り置きを。よろしくお願い申し上げます。